本文へジャンプ

関節リウマチとユニバーサルデザイン

はじめに

 最近,まちづくりや建築物,そしてさまざまな日用品に関して,「ユニバーサルデザイン」という言葉をしばしば聞くようになりました。障害をもった人々を対象にして「バリアーをなくす」だけでなく,誰にでもバリアーが少なく使いやすいデザインという意味で,この言葉は,文房具や電化製品の広告にまで使われるようになっています。しかし,「ユニバーサルデザイン」と「バリアフリー」との区別が判然としないで使用されているのが現状ではないでしょうか。
 

ユニバーサルデザインに関心をもったきっかけ

 私がユニバーサルデザインに関心をもったのには,2つの理由があります。
 第1の理由は,作業療法士が作成した装具ですが,見栄えが悪いため装着されない患者さんがたくさんおられました。これを既製品化しますと,かなり見栄えが良くなります。このようにたとえ,医療用装具であっても美しくて機能性のある装具の必要性を実感しました。
 第2の理由は,私が障害をもった方が「安心して旅行がしたい」との願いを実現するためのボランティア団体に20年来,参加してきたことです。この活動の中で,車椅子が改札口を通過できないとか,業務用のエレベーターでしかホームに上がれない,列車に車椅子で乗降できない,多人数が利用できる洋式トイレがないなど,障害を持った方の旅行が如何に大変なのかを実感したことです。
 私がお話しする「ユニバーサルデザイン」は本来,建築・デザイン関連が専門の分野です。私は関節リウマチ(RA)を専門とする臨床医ですので,「ユニバーサルデザイン」に関しては門外漢であるといわねばなりません。
 また,医療分野におきましてもRAだけがユニバーサルデザインに特別,関連が深い訳でもありません。私がRA医療,とりわけRA患者のリハビリテーションを行ってゆくうえで,ユニバーサルデザイン的な考え方が大変,重要であると考えています。

ユニバーサルデザインとは

 バリアフリーは,障害をもつ人が社会参加しやすくするために,存在するバリアを特別な手段で取り除こうとする考え方で,1960年代に提唱されました。
 ユニバーサルデザインはノースカロライナ州立大学のユニバーサルデザイン・センター所長であったロナルド・メイスが1985年に正式に論文で提唱したバリアフリー概念の発展形です。すなわち,年齢,性別,国籍,言語,障害などの有無に関係なく,誰でもが使いやすい製品や環境を作っていこうとする考え方です。
 つまり,バリアフリーは障害を特別視する対応であるのに対して,ユニバーサルデザインはすべての人を対象とするデザインということができます。

玄関へのアプローチ

 左写真は電動車椅子生活をされているリウマチ患者さんの住宅です。電動車椅子用にスロープが設置されています。しかし,階段が併設されてないため,健常者にはアプローチが長くなって逆にバリアになっています。
 右写真のようにスロープと階段を併設することにより,様々な人が利用できる玄関になりユニバーサルデザインということができます。

 

リフトバスとノンステップバス

 リフトバスは車椅子専用に利用されており,利用者を昇降させるのに大変時間がかかります。他の乗客はイライラしながら待たなければなりません。また,リフトの恩恵を受けられるのは車椅子の利用者だけで,少々足が不自由な程度の人は苦労してステップを使わねばなりません。
 ノンステップバスは,車椅子の利用者だけでなく,足の不自由な人高齢者,ベビーカーを押している母親たちでも,楽々と時間をかけずに乗り降りできます。乗客のイライラも解消され社会の調和が保たれます。
 人と違った扱いを受けるところから差別は生まれます。障害をもつ人々がそうでない人々と同じように乗ることができると,そこから差別的な考えや態度が生まれることはないと思います。

 

多目的トイレ

 高速道路のパーキングエリアにあった身障者対応のトイレです。このパーキングエリアでの洋式トイレはここひとつで,男女のトイレには洋式トイレがありませんでした。
 このトイレは,これまで様々な名前で呼ばれています。身障者トイレ,車椅子トイレ→バリアフリートイレ→多目的トイレ,ファミリートイレと呼ばれ方が変化しています。このトイレの案内板にも,障害のある人だけでなく幼児を抱いた人やお年寄りや膝の悪い方など,様々な人が利用できるよう表示されています。
 しかし,数が少ないと多人数が同時に利用できなくて,障害のある人達の団体だけでなく,外国人の団体旅行客が利用するのも大変,難しいです。
 すべてのトイレが洋式化されることにより,誰でも利用可能なトイレ施設といえます。また,男女共用で一般トイレとは別個に設置されているのも差別的です。さらに,身障者対応トイレといっても,水洗ノブ,トイレットペーパーの位置が基準化されてなく,視覚障害のある人には利用しにくいものです。
 女性トイレと男性トイレが同じ面積のため,女性トイレは男性トイレに比べて便器数が少なく長蛇の列ができるのも差別的です。

 

障害を特別視するデザイン

 エレベーター内にある障害者のための国際シンボルマークのついたボタンですが,車椅子の方だけでなく,背の低い子供さんや混雑していて,入り口のボタンが押せない場合にも便利です。
 どうして障害者マークが必要なのでしょうか。障害者マークがついていると「身障者以外は使用するな」といわれているようで,使用するのに躊躇する場合があります。このボタンを押すとドアの開閉が遅くなるので,高層ビルのエレベーターでは,「身障者以外の方の利用はご遠慮ください」とわざわざ表記してある場合があります。

 

動く歩道

 羽田空港にある「動く歩道」です。こういった設備では,「急ぐ人のために右側をお空けください」といったアナウンスが流れるところがあります。しかし,左手が不自由な方は右側の手摺を掴りたいはずです。本来,動く歩道は大きな荷物を持った人や長距離を歩けない人のために必要なものだと思います。しかし,現状は,強い立場の人のための「早歩きマシン」になっている事例です。
 このように,本来はユニバーサルデザインであったものが,使用法によっては,強い立場の人のための便利道具になってしまい,本来の使用目的から外れてしまってる場合があります。

 

ユニバーサルデザインの7原則

 1997年ロナルド・メイスはユニバールデザインの7原則を発表しています。この原則は,すべての人が公平に,安全に,快適に使用できるために留意しなければならない原則です。
 すべてのユーザーが等しく利用でき,使う上で自由度が高いこと,使用方法が単純であること,絵や音声により使用方法が簡単に理解できること,エラーに対応できるデザインであること,使用に際してわずかの労力ですむこと,利用しやすいスペースが確保されていることの7項目です。
 最近では,それ以外に,価格が適当であること,持続使用が可能であること,環境にやさしく,デザインが優れているようなことが追加されています。

 

ものづくりのユニバーサルデザイン事例

 もの拾いはさみ,長柄のブラシなどの自助具は,作業療法士が自作していましたが,デザイン的に不評なことが多くありました。商品化されるとデザイン的に優れたものになっています。
 キャップを下にして立てることができるケチャップ容器です。最後まで,少ない力で使い切ることができるデザインです。楽に引き抜ける「らくらくプラグ」も,誰にでも便利な商品です。
 シャンプーとリンスの容器はデザインが同じで,健常者でも約半数の人が洗髪中にとり間違えるそうです。ユニバーサルデザイン製品では,シャンプー容器の側面にギザギザが付いていて区別ができるようになっています。障害の有無に関係なく便利なデザインといえます。
 ライターも元々は,第一次世界大戦で負傷した軍人が片手でマッチが使えないことから生み出されました。最初は高価な製品でしたが,誰にでも便利なものであったため,使用頻度が多くなり安価で購入できるようになりました。

 

住宅のユニバーサルデザイン事例

 車椅子用の玄関の昇降機です。普段は昇降機があることを感じさせないデザインです。
 最初は医療用であった温水洗浄器便座つき洋式トイレも,最近ではどこの家庭でも使われています。従来の洋式トイレのタンクの上についていた手洗い器は,手を洗うときに180度,身体の向きを回転しなくてはならないため,障害をもった人には使いにくく,子供も手が届きにくい欠点がありました。手洗い器を出口への動線上の側面に設置して改良されたものが最近では出てきています。
 台所では,シンクや食器棚が上下でき,楽な姿勢で台所作業ができるよう上下が調節できる(ajustable)ような製品も開発されています。
 浴室も以前は作業療法士や大工さんが手作りで改造していましたが,障害をもった人のための特別な改造ではなく,段差のない床,浴槽内で座ることのできる浴槽,無段階に高さ調整できるシャワーノブ,椅子に座って使用可能な高さの蛇口とガランなどが備わったユニットバスが販売されています。これで,障害をもった方だけでなく家族の方も気持ちよく使用することができます。

 

街のユニバーサルデザイン事例

 ジュースの自動販売機も,商品選択ボタン,お金をいれるトレイ,商品取り出し口が中央に集中しており車椅子の方だけでなく,背の低い子供にも商品選択ボタンを押すことができ,また,大人も腰を曲げないで楽に商品をとりだすことができます。街にある水呑場や公衆電話もいろんな高さのものが選択できるようになっています。車椅子が近づけるような空間も下方には確保されています。身障者対応トイレも男女トイレの中にそれぞれ設置されています。

 

街のユニバーサルデザイン事例

 昔,駅に設置されていた障害者用の昇降機はエスカレーターやエレベーターに変わり,車椅子の方だけでなく,大きな荷物をもった旅行者や,ベビーカーを押すお母さんにも便利になりました。自動改札口も車椅子が通れるスペースのものが現われています。道路の陸橋も,エレベーターが併設されることにより,車椅子の方,お年寄り,乳母車を押している方も利用が可能になりました。こういった,設備には一定の費用がかかります。しかし経済的理由だけで利用できない人がいる設備は差別的な設備だといえます。

 

街のユニバーサルデザイン事例

 駅の階段ですが,すぐ横にエスカレーターとエレベターが併設されています。からだの状況に合わせて選択できる手段が併設されていることが大切です。駅構内の音声ガイダンスつき案内板ですが,ピクトグラム(絵文字)による表示は,子供や老人,外国人にも簡単に理解ができて便利です。また点字の読める視覚障害者は全体の約10%,手話のできる聴覚障害者は全体の約15%といわれており,点字や手話だけでは視覚・聴覚が障害されているひとの一部しか利用できません。そのかわりに音声や視覚で誘導されるデザインが障害の有無にかかわらず利用できて便利なデザインです。

 

ユニバーサルデザインに関連する用語

 ユニバーサルデザインの関連する用語もたくさんあります。Barrier-freeのように障害を様々な手段にて取り除くための用語として,万人が利用できる選択肢を用意するという意味でAdaptable,万人に使用することが可能なAjustable,近づきやすい,手に入れやすい,かかわりやすいという意味でAccessibleやVisitableなどが使われます。
 Life-span,Life-time,Inclusive,Transgenerationalなどは子供から高齢者まで全世代の人に対応可能な手段を表す超世代的な用語なども多数あります。ユニバーサルデザインの同義語として,Design for all を使う人たちもいます。

 

ユニバーサルデザイン誕生の背景

 アメリカでは,第二次世界大戦後,朝鮮戦争,ベトナム戦争など戦争が繰り返され傷痍軍人の数が増加していました。また,40年から50年に流行したポリオ,さらには交通災害により障害を持つ人々が増えてきました。60年代には人種差別,貧困問題などに端を発した公民権運動の高揚があり,障害を持った人への対応も今まで以上に求められるようになりました。これまでは,こういった障害に対して個別的にバリアフリーで対応してきましたが,高齢者人口の増大も加わり,個別的な対応では困難になってきました。そのため誰にでも対応が可能なユニバーサルデザインが求められるようになってきました。

障害を持つアメリカ人法(ADA法)

1964年に制定された「公民権法」は,人種,信仰,性別,国籍,民族その他の属性による差別を非合法と規定するものでしたが,障害を持つひとに対する差別に関する規定はありませんでした。1990年に制定された「障害を持つアメリカ人法(ADA法)」は,障害を理由に差別することを禁止し公共性のある施設のバリアフリー化が義務づけられています。ユニバーサルデザイン の精神を色濃く反映している法律いえます。

バリアフリー新法

日本では,2006年10月に施行されたバリアフリー新法があります。この法律は,従来の,不特定多数の人が利用する新築の建築物に対して,バリアフリー化を求めたハートビル法,そして一日5000人以上の乗降客がある駅を新設・改良などをする際にバリアフリー化を義務づけている交通バリアフリー法のふたつの法律を統合し,さらにそれらの施設に付随する駐車場やそこに至る導線にまでバリアフリー化を拡充しています。

 

バリアフリー新法とADA法の比較

この日本のバリアフリー新法とアメリカのADA法とを比較してみますと,日本のバリアフリー新法は,手摺や点字ブロックの設置など,法で定める範囲内での対応を努力目標ろし求めているのに対して,アメリカのADA法では,公共施設において障害により利用が不可能であれば,それ自体を差別と規定し違法判断をしている点で大きな違いが認められます。

 

ここで旧ハートビル法,バリアフリー新法の不適切例をお示しします。

左側の施設は,旧ハートビル法の適応を受けた通所リハ施設ですが,手摺や点字ブロックが備えられていますが,ドアの奥に見えるように,この施設の利用者の大半は,車椅子利用の四肢機能障害の方です。点字ブロックが車椅子使用者にはバリアーになるため絨毯で覆っています。また,手摺は傘架けに変貌しています。右側の施設は最近,医療型介護病棟から有料老人ホームへ転換した施設の階段踊場です。バリアフリー新法により,踊場に点字ブロックの設置が義務付けられています。踊り場での点字ブロックは,高齢者が躓いて階段から転倒する危険があると思います。

 

何故,リウマチ医療にユニバーサルデザインの発想が必要か?

 リウマチ患者の障害部位や障害程度は様々で,一様ではありません。そのため,その対応には様々な選択肢を用意しておくことが必要です。生物学的製剤をはじめとした新しい治療手段の出現により,リウマチ患者の障害は以前に比べて格段に軽くなっており,社会生活の場が拡大しています。しかし,いまだ社会環境はリウマチ患者の行動を阻害する状況が数多く存在しています。こういった現状から考えて,リウマチ医療ならびに社会がユニバーサルデザインの発想を取り入れることが必要だと考えています。

 

様々な経過を辿る関節リウマチ

 関節リウマチの経過を示しております。関節破壊を呈さずに寛解するものから,急速に大関節の破壊を呈し,高度の関節破壊のためQOLの低下をきたす場合もあり,その経過は個々の患者により様々です。このように多様な経過を辿るリウマチ患者に対しては個別的,画一的な対応では不十分でユニバーサルデザインの発想で対応する必要があります。

 

関節リウマチの治療法の変遷

1970年代は非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)中心の治療法でしたが,関節リウマチの自然経過を改善させることは不可能で,安静を強いることでやっと痛みを楽にすることができました。1980~90年代はメトトレキサートなどの疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)の時代で,関節破壊の抑制が可能になり,外科療法と併せて日常生活を維持することが可能になりました。2003年より生物学的製剤が関節リウマチに使用されるようになり,関節破壊を防止,さらには修復することも可能になりました。その結果,健康人と同じ生活を送ることも可能になってきています。治療目標も,症状の改善(Improvement)から寛解(Remmison),さらに治癒(Cure )を目指すようになってきています。

 

当院での生物学的製剤の治療効果

私が診ている患者さんでメトトレキサートなどの疾患修飾性抗リウマチ薬を多剤使用しても,関節リウマチの活動性を抑えることのできなかった難治性の関節リウマチ患者に生物学的製剤を投与した治療成績です。結果を関節リウマチの活動指標であるDAS28の変動でみてみますとインフリキシマブ(Infliximab,レミケード)114例,エタネルセプト(Etanercept,エンブレル)116例,アダリムマブ(Adalimumab,ヒュミラ)19例,トシリズマブ(Tocilizumab,アクテムラ)25例の4薬剤とも従来の疾患修飾性抗リウマチ薬に抵抗性の難治リウマチにかかわらず,ほぼ治療2週目から著効して,長期にその効果が維持されています。また,併用しているステロイドも減量,離脱できる症例もありました。

 

関節リウマチ患者のQOLの変化

 この10年間の関節リウマチ患者さんのQOLの変化をAIMS2を使用して検討してみました。今回の私達の調査結果と1995年の佐藤先生の調査結果を比較検討してみますと,移動,上肢動作,身辺,家事動作など日常生活動作は有意に改善しておりますが,社交,職業,さらに気分といった社会活動に対するQOLは差を認めませんでした。このことは,この10年間のリウマチ治療の進歩により身体機能は改善しているにもかかわらず,社会環境の受け入れが整っていないという状況を反映しているのではないでしょうか。

 

医療のユニバーサルデザイン

 関節リウマチに限ったことではありませんが,医療面でのユニバーサルデザインを考えてみたいと思います。医療のユニバーサルデザインは,誰でもがいつでも最良の医療を快適に受けられることではないでしょうか。そのために解決しなければならないことは,関節リウマチの医療についていえば治療機会格差の是正です。リウマチ専門医や専門施設が存在する地域と存在しない地域があります。また,関節リウマチの治療には生物学的製剤に代表されるような高額な薬物治療があります。高額な医療費負担の能力の有無により治療法に格差が生じていますリ。リウマチ医療の地域格差と医療費負担増大による経済的負担による治療機会の格差が存在します。また,医療機関に存在する施設面,あるいはスタッフの意識面でのバリア,治療器具や薬剤包装などの医療器具のデザイン上のバリアなどが存在します。

 

リウマチ専門医の都道府県別比較

 各県別のリウマチ専門医の人数を人口比で比較したものです。リウマチ専門医の数に約4倍の差が認められています。

 

石川県内のリウマチ専門医,教育認定施設の分布

石川県内のリウマチ医療をみてみますと,リウマチ専門医の数は加賀に集中しており,教育認定施設は金沢市のみです。能登には専門医も少なく,教育認定施設はありません。県内のリウマチ医療に地域的格差があることは明らかです。

 

高額な最近のリウマチ治療薬

21世紀に入りリウマチ治療薬は飛躍的な発展を遂げ,確実にリウマチ炎症を抑制し関節破壊の阻止・修復も可能な時代になりました。しかし,新しい生物学的製剤や免疫抑制剤はこれまでの薬剤費とは比べようもない高額なものとなりました。表は1ヶ月と1年間の薬剤費を載せてあります。これら薬剤費以外に別途,薬剤費,検査,診察費用がかかります。このように高額な医療費がかかるため,これら優れた治療薬による治療を受療できる患者さんとできない患者さんが生じ,リウマチ治療機会に格差が生まれてきています。

医療施設における施設面,スタッフの意識面でのバリア

 医療でのユニバーサルデザインを考える場合,医療機関においても,施設面あるいはスタッフの意識面でのバリアの存在も重大な問題です。これはある病院に見受けられた「身障者専用駐車場」で,身障者用車両以外は停めないように掲示板がでています。病院には「身障者」以外にも関節リウマチはじめ急性腰痛や腹痛など歩くのが辛い患者さんが多数受診されます。本来は,「停めるな」ではなく「お体の不自由な方は,お停めください」ではないでしょうか。

 

治療介入手段のバリア

 薬のパッケージデザインなど治療介入手段にもバリアが存在します。たとえば薬のパッケージですが,リウマチ患者さんに使われている薬剤の包装にはいろんな種類のものがみられます。押したり,引いたり,つまんだり,ねじったりして使用することになり,リウマチ患者さんにはかなりの負担になります。左下段の薬包は1日の薬剤をアサ,ヒル,ヨルと一包化されたものですが,表面に小さく,薄い字でアサ用,ヒル用,ヨル用と書かれているだけです。そのため,飲み間違え事故が多発しています。それに反して,右側の薬剤のように,外箱,錠剤,添付文書,飲み方を一目瞭然に昼用,夜用の区別できるユニバーサルデザインになっています。

 

福祉用具,住宅のユニバーサルデザイン

 福祉用具,住宅のユニバーサルデザインでは,安価で,見栄えのよい補装具であることが必要です。住宅の改造もAjustable(調節可能),Adaptable(順応性,改造可能)であり,患者本人だけでなく,家族みんなが便利で住みよい住宅改造を目指す必要があります。

 

作業療法士が作成した自助具は使いにくい

 当院の作業療法士が,当院で作成した自助具の使用状況を調査した結果ですが,約34%に不都合があると回答があり,その第一の理由が形態上の問題,つまりデザインが悪いため使用されていないという結果でした。

 

福祉用具とユニバーサルデザイン

福祉用具の中にも健常者が使用して便利なものもあります。また,最初は福祉用具として開発されたものが共用品として使用されているものが沢山あります。福祉用具の汎用,共用品化により多量生産,低価格化,デザイン性の向上を得ることができます。ガスライター,洗濯機,温水洗浄器トイレ,自動ドア,リモコン装置などがよい例です。将来,電動車いすも汎用品として,誰でも買い物などに利用しているかも知れません。一方,治療用の装具は,病状,障害に応じてより一層,個別化される必要があります。

 

温水洗浄器トイレの歴史

温水洗浄器トイレは,元々,アメリカにて病院,医療用の施設向けに開発されたものです。日本ではTOTOが1964年アメリカから輸入,主に病院用トイレ(ウォッシュエアシート)として販売を開始しました。1980年から自社開発製品である「ウォシュレット」を販売開始しました。現在はほとんどの一般家庭にも普及しています。価格も汎用化されたため,ウォシュレットが販売された当時の価格より安くなっています。障害のある人に使いやすいものは他の人にも使いやすく,汎用化されることにより価格も適正なものになる好例であると考えます。

 

住宅改造のユニバーサルデザイン

左2つのスライドは,リウマチ財団で監修した住宅改造事例集「リウマチハウジング」に掲載されている玄関の段差解消事例です。このような改造ですとリウマチ患者さんには良いのですが,同居する家族の方には邪魔になってしまいます。右側のように改造すると,患者さんにも家族の方にも利用可能で,見た目もすっきりしています。

 

社会参加のユニバーサルデザイン -UDからみた障害ー

障害を持った方が社会参加する場合,それを阻害する因子として身体的障害に加えて環境が障害を生み出すという側面も見逃すわけにはいきません。また,障害は特別なものではなく,だれでもが「障害者」なりうるのです。ユニバーサルデザイン(UD)の視点から社会参加と障害をみてみることにします。

 

身体機能の変化とユニバーサルデザイン

元気な青年期,壮年期に比べると幼児期や老齢期は体力的に劣っており,様々な場面で障害を受けることがあります。これまでの街づくり,物づくりは,平均的な健常者(多くは若い男性)を標準にして作成されているためです。しかし,現実的にはこの平均的な健常者は少数派で,多くの人が不便を感じながら使用し生活しています。人生において障害は特別なことではなくて一般的かつ普通の出来事です。バリアフリーの考え方では,幼児期や老齢期に生じた障害に対しては個別に対応していました。ユニバーサルデザインではすべての年代に対応できるデザインを開発,作成することになります。

 

誰でもが障害者に・・・ 

 健常であると思っている私達も一時的に障害者になってしまう場合があります。たとえば車の運転中は前方しか見ることができませんから,他の情報は聴覚からしか得ることができません。また,雑踏の中では一時的な聴覚障害者になり,テロップや視覚からしか情報を得ることができません。同じように,日本語が理解できない外国人や携帯電話やパソコンを扱えない人も障害を被ることになってしまいます。つまり,環境が障害を生むことになります。

 

障害とユニバーサルデザイン

障害は特別のものではなく,誰でもが「障害者」になりうるのです。また,障害は個人に問題があるのではなくて,環境により作り出されるという側面があります。そして,すべての人が等しく利用可能になるために,多様な選択肢が準備されていることが重要です。昔は多くの場所で喫煙が許されていました。喫煙者が「多数派」の時代は,タバコが吸えない場所に「禁煙マーク」が張られていました。最近は喫煙者は「少数派」になったため,タバコが吸える場所に「喫煙マーク」が張られています。「障害者」が利用できる場所に「障害者マーク」が使われていますが,将来は「障害者」が利用できない場所に「マーク」が使用されるようになればいいと思います。ユニバーサルデザインとは車椅子,障害者マークのない街づくり,ものづくりです。

 

「障害(がい)者」と「健常者」

最近は「障害者」とは書かないで,「障がい者」と書かれるケースが出てきています。「障害者」の表現は「害」のある人と受け取られる可能性があるため好ましくないからだそうです。また,「健常者」という言葉も不適切であるといわれています。何故なら,障害を持っている人であっても「常に健康である」人がいるからです。「健常者」を「障害を持たない人々」と表現される場合があります。また,「障害者」を表す言葉にも様々なものがあります。「障害を持つ人々という表現は,背が低いとか近視であるとかと同じように障害はその人の属性(個性)のひとつであるとの考え方からでています。この考え方がユニバーサルデザインの考え方に最も近いものです。さらに,「障害を受けている人々」という表現も使われます。障害は不適切な環境により生み出されるという考え方です。昔から日本にある発想は正に「障害者」という表現が当てはまると思います。すなわち,障害をもった人は村全体で面倒は見るが,人様の前には顔を出すなといった,慈善・福祉の対象としてみる考え方です。

 

なんでもかんでもバリアフリー?

これは,国宝の善光寺本堂です。車椅子の人のために本堂の横にスロープが新たに設けてあります。文化財の雰囲気を壊さないように木製で色合いも配慮されています。しかし,文化財は本来の姿で保存するのが本当ではないでしょうか。海岸や山岳地帯もすべてバリアフリーにすることはないと思います。そういった自然が残されているのも本来の姿なのです。ただ,その場所を利用できない人がいるのだということを,すべての人が認識できること,利用できない人がいるのだということをすべての人が理解できることが重要なのです。そして,困っている人がいれば気楽に助けを求められる環境が重要であり,そのような状態が本当の意味でのユニバーサルデザインではないでしょうか。これがユニバーサルデザインだといった完成されたものがあるわけではありません。何がユニバーサルデザインなのかを考え,それを実現するためのプロセスが大変重要であると考えます。

 

以上です。今回の発表に利用した参考資料です。また,同僚のリウマチ科医師ならびに当院作業療法士,上荒屋クリニックの作業療法士にご協力いただきました。ここに深謝いたします。

ページの先頭へ戻る